・白
ワタシは‘白’、ただまっ白に生まれたろうそくです。
淡い色さえまとうことなくただまっ白。
ワタシは少し不安だったのです。
けれど、ワタシを作ったヒトはただ一言「大丈夫」と云いました。
・・・ ・・・
ある日ワタシは、ワタシを見つけてくれた人、その人の気持ちを伝える代わりに、
大切なモノをそっと抱えてあなたの元へ手渡されたのです。
ワタシを渡された時のあなたの顔は、一瞬ほころんで、
けれどその笑顔はどこか深く哀しそうでした。
それから暫く、ワタシは灯されることなく、その場所であなたを見つめていたのです。
あなたは懸命に、笑顔を保っているように見えました。
少ししてワタシは気がついたのです。
隣りに置かれている写真のひとは、今はもういないのだと...
ようやく少しずつあなたの時間が戻って、あなたはふとワタシを見つめました。
夕暮れがきて、あなたはワタシにシュッと炎を授けてくれたのです。
ワタシを見つめながら、あなたはようやくぽろぽろっと心の鍵を解いてくれました。
「大丈夫」
今度はワタシがそっと言いました。
・・・ ・・・
‘白いろうそく’は、自身が手掛けるものの中でも好きなろうそくです。
清潔で、ハッとして、潔くて、制作は緊張して...それでいて限りなく優しい。
数年前、長年連れ添った2匹の犬(kaltio.永久相談役)たちが、
立て続けに天に召された時は、さすがに参りました。
淡い色合いのろうそくが多いのですが、
ぼんやりと眺めたろうそくは、それでもそんな時、心にうるさかった...のです。
どうしようもなく切ない時にでも、そっとやさしく、
決して多くを語らないろうそくを(...ふふ。)作ってみたくなったのです。